『病牀六尺』は、松山出身の文人・正岡子規が、明治35年5月5日から亡くなる2日前の
9月17日まで、死の病と向き合う苦しみ・不安、日々のたわいもない日常の風景、介護し
てくれる家族のこと、文学、芸術、宗教など日々心の底から湧いてくる気持ちを日々書き綴
った随筆です。日本人に100年以上読み継がれる名作ですが、同時に死と向き合う心情を赤
裸々に包み隠さず表現した闘病記録です。透明な躍動感とユーモアを放つ子規文学の「響き」をお届けします。
<本文>
○近作数首。
悼清国蘇山人
陽炎や日本の土にかりもがり
送別
君を送る狗ころ柳散る頃に
欧羅巴へ行く人の許へ根岸の笹の雪を贈りて
日本の春の名残や豆腐汁
無事庵久しく病に臥したりしが此
頃みまかりぬと聞きて
時鳥辞世の一句無かりしや
鳴雪翁の書画帖に拙くも瓶中の芍
薬を写生して自ら二句を賛す
芍薬の衰へて在り枕許
芍薬を画く牡丹に似も似ずも
謡曲殺生石を読みて口占数句
玉虫の穴を出でたる光りかな
化物の名所通るや春の雨
殺生石の空や遥かに帰る雁
正岡子規「病牀六尺」
初出:「日本」1902(明治35)年5月5日~9月17日(「病牀六尺未定稿」の初出は「子規全集 第十四巻」アルス1926(大正15)年8月)
底本:病牀六尺
出版社:岩波文庫、岩波書店
初版発行日:1927(昭和2)年7月10日、1984(昭和59)年7月16日改版
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